乾癬ヘアサロン

髪のプロと学ぶ、乾癬と頭皮とケアのお話

頭皮と髪のプロだから知っておきたい
乾癬かんせんの知識

第5回今から知る ここから変わる “乾癬”患者さんが気持ちよく来店できる美容室へ

のりこ美容室
前田 秀雄さん

名古屋市立大学
西田 絵美先生

 「乾癬」という、主に皮膚に症状が出る疾患を知っていますか?
炎症が頭皮に現れることもあり、美容室から足が遠のいている患者さんも多い現状。
誰もが美容を楽しめる未来をつくるため、乾癬のエキスパートである皮膚科の西田絵美先生と、毛髪科学に造詣が深い美容師・前田秀雄さんに対談してもらいました。

変化に気づけるのが美容師。
正しい知識を持てばちゃんと対応できる

のりこ美容室 前田 秀雄さん

まえだひでお/美容師であり毛髪診断士。1965年京都府生まれ。京都理容美容専修学校卒業。2007年、㈱NORIKOを設立。日本毛髪科学協会認定講師および毛髪診断士の資格を持つ。

諦めていた美容室に行ける。
それだけで患者さんは嬉しいんです

名古屋市立大学 西田絵美先生

にしだえみ/乾癬のエキスパート。2004年名古屋市立大学医学部卒業。日本皮膚科学会 皮膚科専門医。日本乾癬学会 会員。

美容室は乾癬患者さんの強い味方になる

「美容室に行ったら迷惑だろう」「施術を受けられないのでは……」

そんな不安を抱える乾癬患者さんのために、美容師が知るべき正しい知識、そしてできることとは。

乾癬とは?

皮膚の炎症性疾患。全身のうち、特に肘、ひざ、腰まわり、 頭部、爪などに現れる。現在の日本の患者数は40 ~ 50 万人※ 1,2。男女比は約2:1で平均発症年齢は40 歳弱※3

※1:Kubota K et al. :BMJ Open. 5:e006450, 2015

※2:照井正 他:臨床医薬. 30:279-285, 2014

※3:Takahashi K et al. :J Dermatol. 38:1125-1129, 2011

乾癬は感染しない
仕組みと症状を知ろう

前田 皮膚の疾患、「乾癬」について、少しずつ認知が広がっていますよね。

西田 乾癬には大きく5つの種類があります。全体の約90%を占めるのが大小さまざまな形の発疹が全身に出現する「尋常性乾癬」です。原因ははっきり分かっていませんが、遺伝的要因と環境的要因が合わさって発症につながるとされています。

前田 頭皮に症状が現れる割合は?

西田 約8割の患者さんが頭皮の症状を経験すると言われていて、生え際や耳周辺に出ることが多いです。頭皮の乾癬の症状は下図をご参照ください。頭皮の「鱗屑(りんせつ)」(皮膚に銀白色のかさぶたのようなものができて、はがれ落ちたもの)がフケのようになりますが、これは不潔なのではなく病気の症状なんです。乾癬の患部は、免疫バランスの異常により皮膚のターンオーバーが活発になり、通常の約10倍の速度で新しい皮膚がつくられるため、ポロポロとはがれ落ちるのです。

前田 美容師はまず、感染しないか不安を抱くと思いますが、免疫が原因のため「乾癬は感染しない」とはっきり伝えたい。

西田 日本には現在1000人に4~5人の患者さんがいます。乾癬は良くなったり、悪くなったりする病気ですが、今はお薬でうまくコントロールできるようになりました。うまく付き合っていく病気です。だからこそ患者さんがもっと美容を楽しめるようになってほしいんです。

美容室を敬遠されないために
知っておくべき似た疾患

西田 乾癬患者さんは、迷惑だろうと気を遣って美容室に行かない人が多くて。自分で髪を切る方もいます。

前田 何か分からないから、触っていいのか、うつったらどうしようかと不安に思う美容師も多いはず。

西田 乾癬の診断は難しいんです。頭皮だけに症状が出ていたり、かゆみを感じない方も多いので、気づいていない患者さんも多いです。

前田 脂漏性皮膚炎、ヘルペス、アトピー性皮膚炎など、区別がつきづらい病気もありますよね。

西田 脂漏性皮膚炎が一番似ているといわれています。脂漏性皮膚炎は感染しませんが、ヘルペスや白癬は感染するため、検査をして診断をつける必要があります。病院に行くことを勧めて頂ければと思います。

頭皮の異変に気づいたら
言葉に気をつけて伝える

前田 美容師は同じ人を定期的に見ているから、変化に気づきますよね。

西田 いつも来る方の変化は伝えやすいですよね。ただ、初めて来た方への声のかけ方が難しい。

前田 うちは電話で予約をとるとき、毛髪診断士の資格を持っているので安心して言ってね、と伝えています。カウンセリングはカーテンで区切った部屋で行います。

西田 個室はいいですね。

前田 あと、鱗屑が目立たないよう白いクロスで施術します。鱗屑が落ちてても普通に触ってあげるんです。

西田 それは喜ばれてると思います。症状に気づかれていないときはどう伝えますか?

前田 通院を勧めるのは、3回くらい来てる方じゃないと難しい。腕など見えるところに症状が出ていたら、皮膚について聞いてみて。「僕らは乾癬かどうかわからないから、ちょっと病院へ行きましょうか」って、深刻にならないように伝えます。

西田 関係性が大事ですね。ただし感染症の場合は別です。ヘルペスの場合は痛みも伴うので、疑われるときはすぐ病院を勧めて頂きたいです。

前田 カウンセリングシートの頭皮の項目にチェックがついていなくても、頭皮はちゃんと見てほしい。

西田 フケの量や頭皮の状態は確認してほしいですね。

カラー、パーマ、シャンプー
大事なのは“刺激を避ける”!

西田 施術時も注意が必要。皮膚が刺激を受け、新たに乾癬の症状ができることを「ケブネル現象」と言います。例えば皮膚に爪を立てて洗ったり、掻いたりすることで症状が出てしまいます。これには注意してほしいです。

前田 刺激を与えるのが一番よくないですね。カラーでは、アルカリカラーは避けた方が良いです。ヘアマニキュアや酸性カラーの方が刺激が少ないですね。そしてゼロテクで頭皮にカラー剤をつけない。

西田 症状が良くなってきていてもケブネル現象は起きやすい皮膚なので、常に気をつけてほしいです。

前田 色の幅は狭まるけど、染められると嬉しいですよね。流すときはできるだけ頭皮にカラー剤をつけないよう気をつける。患部の周囲3センチくらいはこすらないで洗います。

西田 泡立ててから頭皮を洗うこと、爪を立てて洗わないことに注意してください。そして、鱗屑は無理にとらないでください。

前田 僕らはお客さんに「肘を開いて洗わないで」と伝えます。肘を開くと頭皮に触れる部分が点になるけど、肘を下げると面になるんです。美容師さんがシャンプーするときも、爪を立てず面で洗う。界面活性剤を使ってない製品の方が良いですね。トリートメントは地肌につけないように中間から毛先につけて、上はコーミングで伸ばす。乾かすときはブラシを使わず、低い温度で風圧でドライ。カビの原因になるので、地肌をしっかり乾かしましょう。あとは「このシャンプー使ったら治るよ」などとセールスするのはNGです。

西田 商品を勧められて嫌な気持ちになった患者さんもいるみたいです。

前田 パーマは、毛先だけならOK。頭皮につかないように洗い流します。

西田 毛先だけでも、諦めていたことができると喜ばれるはず。ヘアスタイルはどんなものが良いですか?

前田 生え際に症状が出ていたら前髪をつくるとか、気にならないようにします。女性ならロングの方が毛先でおしゃれを楽しみやすいかも。

西田 刈り上げやボウズは髪のチクチクがケブネル現象に繋がることがあります。

前田 確かに電気バリカンは頭皮への刺激が強いので避けた方が良いですね。コンプレックスをうまく隠してあげる提案が必要です。

ここに気を付けて! 乾癬患者さんへの施術のポイント

Shampoo

  • お湯はぬるいと感じる温度で
  • 爪をたてない
  • 手のひらにお湯をためて流す

Dry

  • ブラシは使用しない
  • 低温・高風圧
  • 地肌をしっかり乾かす

Color

  • ヘアマニキュア
    (酸性カラー)を使用
  • ゼロテクで施術

Perm

  • 毛先だけのパーマを提案

正しい知識を持ち
良い変化を伝えよう

前田 一番伝えたいのは、知識をちゃんと持とう、ということ。絶対うつる病気じゃないと認識してほしいです。そして、治療は医師に任せる。

西田 乾癬は治療すればよくなります。美容師さんに「だんだん良くなってきたね」と言われたのがすごく嬉しかった、という方もいるので、変化を伝えてあげてください。マイナスなことを言うより、いろいろやれることがあるよ、と伝えると患者さんは喜ばれると思います。

前田 患者さんの気持ちも明るくなるし、信頼につながりますよね。

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